豆知識

御幣束とは?

豆知識

お正月は、歳神様をはじめとするさまざまな神様のご守護を賜り、家内安全や厄災除けなどを祈る日本古来の風習の中でもとくに大きな意味を持つ日。歳神様に加え、火や水の神様などのご守護を賜るべく「御幣束(おへいそく)」を家の場所場所にお祀りするのが習わしです。

今回は、神様の依り代となる御幣束を紹介します。

御幣束(おへいそく)とは?

御幣束(おへいそく)は、歳神様をはじめ火や水の神様のご守護を賜ろうと家のあちこちに祀る祭具(神具)です。木の串の先に雷光に見立てた紙を挟んだもので、神主が祈祷の際に振るったり神社の御神体の近くに祀ってあったりします。現在では神棚がない家も増えましたが、一般の家庭でも神棚、台所、井戸やトイレなどに祀って家内安全や厄災除けなどを祈願してきました。

なぜ雷を模した形?

落雷があると稲が育ち豊作になるとされることから、五穀豊穣を願い雷光(稲妻)を模した形になったとされます。また雷には邪悪なものを祓う力があると考えられていることも理由のひとつです。

御幣束の名前の意味

御幣束(御幣)は、神々へ捧げる貴重な品を表す「幣」に尊称の「御」を付けて呼んだものです。神道の祭祀で用いる時代の代表的な捧げものを意味する「幣帛(へいはく)」の一種であり、共通する「幣」の字には麻(麻布)を表す意味があります。

古代日本で麻は貴重品であり、麻布を主とする布類は代表的な神への捧げものでした。これが時代を経て同じく貴重品の紙へと置き換わり現在に至ります。

現在でも貨幣や紙幣に「幣」の字が使われています。

御幣束は「幣串」「紙垂」の2つからなるシンプルな構造

御幣束の構造を解説する画像(幣串、紙垂)

御幣束の構造は非常にシンプルで、木の部分「幣串(へいぐし)」と紙の部分「紙垂(しで)」の2つで構成されます。

  • 幣串(へいぐし)
  • 紙垂(しで)

主に白木で作られた幣串の先端に紙垂をはさみ込み、一体化させたものが御幣束です。

紙垂(しで)とは?

紙垂は注連縄(しめ縄)、玉串、大麻や御幣などに付けて垂らす紙で、独特の形状をしています。「しで」とは動詞「垂ず(しづ)」の連用形で「しだれる」の同根語。その起源は古く、日本最古の歴史書『古事記』ですでに「岩戸の前で榊の枝に『白丹寸手(しらにきて』と『青丹寸手(あをにきて)』を下げた」(天の岩戸の伝説)と記されています。

古くは木綿(ゆう)を用いていましたが、現在では奉書紙や美濃紙などの紙を使うのが一般的です。また紙の断ち方や折り方にはいくつかの流派があります。

御幣束の折り方の流派(吉田流/白川流/伊勢流)

代表的な流派は上記の3つですが、地域性などにより多様化。たとえば宮城県気仙沼市にある早馬神社(はやまじんじゃ)には、69種類もの切り紙が伝承されています。

紙垂は用いる状況により意味合いが変化する

前述のとおり紙垂はさまざまな場面で用いられますが、状況に応じて大きな意味合いが変化します。

  • 玉串、大麻、御幣に取り付ける場合は「祓具」
  • しめ縄に取り付ける場合は「聖域を示す印」
相撲は神事、横綱は神様

また相撲の横綱も土俵入りの際に紙垂を垂らした綱をつけます。この綱は白麻で作られており、横綱だけが締めることを許される特別なもの。相撲は神事であり、横綱は神様(神の依代)であるとされる所以が見て取れる瞬間です。

神職が持つ御幣と特徴的な御幣束

先ほど触れた早馬神社の御幣束もそうですが、全国には地域性に富んだ特徴的な御幣束をお祀りする地域も少なくありません。神職が振るう御幣とともに簡単に紹介します。

御幣(ごへい)
大麻(おおぬさ)、祓幣(はらいぬさ)などともいうたくさんの紙垂や麻苧(あさお)がついた神具です。祭祀で穢(けがれ)や災いなどを祓い清めるために行う神道の儀式(修祓/しゅばつ)で神主が振るいます。榊を使ったものを大麻、白木など榊以外を使ったものを小麻と分類する資料もあり。先端に大量の御幣束を取り付けた梵天(ぼんてん)は、神道のみならず仏教でも広く使われています。

三宝荒神幣
基本となる白を挟むように青、赤の紙を重ねて作った紙垂を使った御幣束です。上部が青、下部が赤になるよう折りたたみ幣串に挿みます。

御幣束を祀る理由

御幣束をお祀りする理由は大きく2つ。

  • 穢(けがれ)を取り除き空間を清める
  • 神聖な空間を示す

紙垂には穢を吸収する力があるとされ、神主が手に持って御幣を振るう場合は主に周辺の穢を取り除いて清めることが目的です。また神聖な空間を示す意味もあり、家の神棚に祀る場合は紙が宿る御神体のような役割があります。

御幣束の祀り方の基本

基本となる御幣束の祀り方の紹介です。地域による違いもありますが、まずは基本的な御幣束の祀り方を知っておきましょう。

神棚に祀る際は複数本立てるのが基本

御幣束を神棚にお祀りする場合は複数本立てるのがよいとされ、神棚の大きさに応じて3本もしくは5本をお祀りするのが基本です。ただ地域によっては左右1本ずつ立てるところもあるなど明確なものではなく、1本ではいけないということでもありません。地域の慣習などを参考にして、ご家庭で祀り方を決めるとよいでしょう。

また紙垂の折り方などは地域により異なる場合があります。氏神様をはじめ地域の神社で御幣束を購入する場合はとくに問題ないでしょうが、ECサイト(ネット通販)で購入する場合は事前に確認すると安心です。

神棚中央、御札より手前に立てて祀る

御幣束は神棚の中央かつ御札よりも手前に横並びでお祀りするのが基本です。垂直に立てるものとされ、専用の台があると簡単かつキレイにお祀りできます。ただ必ずしも専用の台が必須ではなく、榊立てに挿したり粘土などを土台にして挿したりしても構いません。

祀る神様により場所が変わる

御幣束はご利益を賜りたい神様に応じて色や形が変わるほか、お祀りする場所も変わります。

神様どんな神様?飾る場所
屋敷神家の神様神棚
水神水の神様井戸、台所など水を使う場所
竈神/荒神(こうじん)/御釜様火の神様台所など火を扱う場所。御釜様、荒神(こうじん)
厠神トイレの神様トイレ
御幣束の色意味
最もポピュラーな御幣束。神棚や居間などに飾り、形状などにより屋敷神様をはじめさまざまな神様をお祀りする
白色の御幣束と同じ
赤/
紅白
火の神様をお祀りする御幣束。かまどや台所など火を使うところへお祀りする
銀/
水色
水神様をお祀りする御幣束。井戸や台所など水を使うところへお祀りする
嵐よけの御幣束。神棚にお祀りする
その他5色(赤、緑、黄、青、白)、3色(赤、白、青)、緑や黄色などさまざまな色のある

家を守る神様をはじめ、火や水などご利益を賜りたい場所に対応した御幣束をお祀りするのが基本です。ただ場所の関係から難しい場合は、すべてまとめて神棚にお祀りしても構いません。

御幣束は東か南に向ける

御幣束は神棚同様に東か南に向けるのがよいとされます。御幣束の正面は「こより」の結び目があるほうなので、その面を東か南に向けてお祀りするとよいでしょう。こよりがない場合は、紙垂の折り方でも正面を判断できます。紙垂が折られている方向が正面です。

神棚がないときは?

最近はとくに神棚がない家も増えていますが、神棚がないからといって御幣束を通じて神々のご守護を賜れないわけではありません。神棚がない場合は以下の点を意識した場所にお祀りします。

  • 最も人が多い場所
  • 人が長く滞在する場所

「玄関はダメ」という考え方もあるようですが、大切なのは御幣束をお祀りすること。「ここにお祀りしなければいけない」というほどの強制力はありません。場所がない場合はもちろん、人がよく出入りするからなどの理由で玄関にお祀りするのもよいでしょう。

御幣束を取り替える時期

御幣束を取り替える時期は12月中がよいとされます。12月13日の正月(事)始めから28日にかけて、歳神様や氏神様の御札と共に新しいものへ替えるとよいでしょう。

12月29日以降がよくないとされるのはなぜ?

以下の理由からお正月の準備を避けたほうがよいとされます。

  • 12月29日|「二重苦(29)」に聞こえ縁起が悪いため
  • 12月30日|旧暦の大晦日にあたり一夜飾りとなるため
  • 12月31日|一夜飾りとなり葬式を想起させるため

また31日は「新しい歳神様は31日の早朝に来るため準備が間に合わないから」ともいわれ、来年の歳神様をお迎えし今年の歳神様を送り出す準備が急ごしらえでは失礼に当たるとの理由も避けられる要因です。
強いていうなら、28日までに準備が終わらない場合は30日に準備するとよいでしょう。

御幣束の処分方法

家庭でお祀りする御幣束は御神体の役割があるため、神社でお焚き上げをするのが一般的です。神社に備えてある古い札(古札)を納める場所に納めるほか、どんと焼きに合わせて所定の場所および方法で納めます。
また遺品整理の折に遺品整理業者に処分を依頼することもできるでしょう。何らかの事情で自ら処分せざるをえない場合は、地域の神社に相談してください。

御幣束に関する疑問、質問

Q
御幣束は必ずお祀りしなければならないの?
A

必須ではありません。神棚がないなどの理由で御幣束をお祀りしないところもあるほか、家長の交代などを機に止めることもあります。どちらがよいということではありませんが、火や水の神様のご守護を賜り、その年の家内安全や厄災よけなどを祈念する意味で御幣束をお祀りするのがおすすめです。

Q
家族に不幸があった場合はどうしたらよい?
A

神道では、ご家族に不幸が合った場合に最大50日間を「忌中」とする考えがあるため、この間は御幣束をはじめとするお正月の準備は控えたほうがよいでしょう。忌中が過ぎ忌明けとなったのち、新しい御札や御幣束と取り替えます。

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