神棚にお祀りするおふだの中でも、とくに欠かせないものが「神宮大麻(じんぐうたいま)」のおふだです。年末になると、お正月の神様でもある歳神様、地域の神様である氏神様のおふだと共に新調して新年を迎える準備をしますが、神宮大麻についてどの程度知っていますか? 神宮大麻とはどのようなおふだなのか、なぜ大切にされるのかなどを紹介します。
神宮大麻(じんぐうたいま)とは?
神宮大麻(じんぐうたいま)とは、伊勢神宮で作られたおふだです。少しむずかしい言い方をすると、伊勢神宮で奉製されたお神札(おふだ/正しくはお札ではなくお神札と書く)であり、御祭神である天照大御神のご神徳が込められています。
地域にはその土地を守護する氏神様のご神徳が宿るおふだがありますが、中でもとくに強い力で大きなご神徳を与えてくれるのが伊勢神宮に鎮座する日本の総氏神たる天照大御神。天照大御神のご神徳が宿る特別なおふだを神宮大麻と呼んでいます。
神宮大麻をお祀りする理由
天照大御神は皇室の御祖神であり、日本人をすべからく守護する総氏神です。日本が今日まで平和に発展してこられたのは天照大御神のご神徳であり、信仰の賜。神棚に神宮大麻と地域の氏神様のおふだをお祀りし、日々の感謝や家族の幸せを祈ってきました。神様を敬い、感謝し、世界に誇る「日本人らしさ」「日本人の美しい心」を子々孫々までつなぎ、秩序づけられた国の発展を願う心を寄せる先こそが神宮大麻であり、お祀りする理由です。
神宮大麻の迎え方
神宮大麻は、伊勢神宮をはじめ全国の神社で頒布(はんぷ)されています。伊勢神宮では年が明けるとすぐに神宮大麻の奉製がはじまり、その年の神宮大麻が完成するのは9月以降。そこから全国の神社へ届けられ、10月頃には全国の神社でお頒ちの準備が整います。年末までに地域の神社で新しい神宮大麻を受け、新年を迎える準備を整えましょう。
神宮大麻に巻かれている紙は外す?外さない?
神宮大麻や氏神様のおふだには薄紙が巻かれていますが、これはおふだが汚れないように保護するためです。神社によっては薄紙に紋様などの装飾が入っている場合もありますが、あくまでも包装紙であるため、神棚にお祀りする際は破いてしまって構いません。
ただ地域や神社によっては直接見たり触れたりすることは恐れ多いとして、破らないままお祀りするとしている場合もあります。あくまでも家庭の判断で決めて問題ありませんが、地域のやり方を事前に確認するのもよいでしょう。
神宮大麻の種類
伊勢神宮で奉製される神宮大麻には3種類の大きさがあります。
神宮大麻(じんぐうたいま) | 縦24.5cm × 横6.8cm |
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神宮中大麻(じんぐうちゅうたいま) | 縦25.0cm × 横7.5cm |
神宮大大麻(じんぐうだいたいま) | 縦30.5cm × 横10.5cm |
大きさによってご神徳が変わることはないので、神棚の大きさに合わせて選びましょう。
授与大麻と頒布大麻
神宮大麻には全国の氏神神社から家庭へお頒ちされる一般的な神宮大麻「頒布大麻」のほかに、伊勢神宮で直接授与される「授与大麻」もあります。頒布大麻は、天照大御神のご神徳を全国の家庭に頒ち、国の平和や国民一人ひとりの幸福などを祈念するおふだです。
これに対し授与大麻は、伊勢神宮の内宮下宮の神楽殿において額(ぬか)づき授与されるおふだであり、伊勢神宮に参宮(さんぐう)した印。額づくとは「ひたいを地面につけて拝むこと。地にひたいがつくほど丁寧にお辞儀をすること」であり、神宮大麻にかけられた祈念だけでなく個人的なお願いに対してもご神徳が及びます。伊勢神宮で直接おふだを受けた場合も、一般的な神宮大麻(頒布大麻)とともに神棚へお祀りしましょう。
神宮大麻は手元に届くまでにさまざまな祭典を経る
神宮大麻は伊勢神宮で奉製された後、全国の神社から各家庭へ頒布されるまで清浄に保たれるよう数多くの祭典を行います。奉製中はもとより、完成した後も清浄なまま保たれるよう丁寧に扱われているのが大きな特徴です。
伊勢神宮で行う神宮大麻奉製に関する祭典
まずは伊勢神宮で神宮大麻の奉製に関わるお祭りを紹介します。新年がはじまるとすぐにその年の神宮大麻奉製に関わる祭典が行われ、9月17日の祭典をもって全国への頒布が開始。伊勢神宮から神社本庁、都道府県の神社庁へと渡っていきます。
- 1月上旬大麻歴奉製始祭(たいまれきほうせいはじめさい)
神宮大麻と神宮暦の奉製をはじめるにあたり、大御神の加護のもとに滞りなく行われるようお祈りするお祭り
- 3月5日大麻歴頒布終了祭(たいまれきはんぷしゅうりょうさい)
全国崇敬者にお頒けする大麻と暦の頒布終了を奉告するお祭り
- 4月上旬大麻用材伐始祭(たいまようざいきりはじめさい)
神宮大麻の御用材を伐りはじめるお祭り
- 9月17日大麻歴頒布始祭(たいまれきはんぷはじめさい)
神宮では、神社本庁、各都道府県の神社庁を通じて年末までに神宮大麻と神宮暦を全国崇敬者の各戸へ頒布するが、これに先立って内宮神楽殿において全国の神社庁代表者参列のもとに行うお祭り
- 12月下旬大麻歴奉製終了祭(たいまれきほうせいしゅうりょうさい)
神宮大麻と神社暦が滞りなく奉製し終えたことを奉告するお祭り
- 随時大麻修祓式(たいましゅはつしき)
清浄に奉製されたおふだやお守りなどをお祓いするお祭り
伊勢神宮では、新しい年を迎えるとすぐに神宮大麻の奉製を開始。9月17日の祭典をもって全国への頒布が開始され、伊勢神宮から神社本庁、都道府県の神社庁へと渡っていきます。
神社庁から家庭に届くまで
9月17日の神宮大麻頒布始祭が終わると、神宮大麻と暦は神宮大宮司より神社本庁統理へと授けられ、その後47都道府県の神社庁へ。都道府県神社庁へ届けられた神宮大麻は、神宮大麻歴頒布始奉告祭を行った後に各支部へ授けられ、さらに支部ごとに神宮大麻歴頒布始奉告祭を行ってから家庭へ届けられます。
- 9月下旬県神社庁神宮大麻歴頒布始奉告祭
47都道府県の神社庁へ届けられた神宮大麻を各支部へ授けるにあたり行うお祭り
- 10月中旬~
11月中旬支部神宮大麻歴頒布始奉告祭都道府県内の神社庁各支部に届けられた神宮大麻を家庭へ頒布するにあたり、神職や総代などが参列のもとに行うお祭り
神宮大麻歴頒布始奉告祭の具体的な日程や回数は各都道府県の神社庁や支部により異なるものの、伊勢神宮を離れてなお数多くのお祭りを経て家庭へ頒布される点は同じです。神宮大麻を清浄なまま家庭へ届けるため、伊勢神宮をはじめ各都道府県の神社庁、支部、氏神神社が心を尽くしています。
神宮大麻の歴史
神宮大麻の大麻は「おおぬさ」とも読み、神職がお祓いに用いる祭具のことです。古くは伊勢の御師(おんし)が全国で頒布した「御祓大麻(みはらいたいま)」を起源とし、時代の変遷を経て現在の形になりました。
平安時代末期
平安時代末期、伊勢の御師と呼ばれる祈祷師が全国各地を祈祷してまわり、その証として「御祓大麻」を頒布したことが神宮大麻の起源です。御師とは特定の寺社に属して参詣者の案内や参詣の世話などをおこなう神職のことであり、とくに伊勢の神宮に奉仕する神職を「おんし」と呼びます。全国からの参詣者の案内や宿泊場所の提供や神楽の奉奏などを行い、伊勢神宮を訪れる全国の崇敬者の橋渡しとなっていました。御師とは「御祈祷師」の略称であり、平安時代ころから神社に属す社僧を指すようになり、その後に神社の参詣者の世話をする神職に対しても御師と呼ぶようになります。
御師は祈祷を行った証として祓串(大麻)を和紙に包んだものを願主に届けていましたが、やがて伊勢参りを目的として組織された信仰集団「伊勢講」などの講を通じて頒布されるようになりました。これが明治時代の変遷を経て象徴となる御璽(ぎょじ)が押されるようになり、その後も御真(ぎょしん)として続いていきます。
明治維新以降
明治維新の折、国家神道の形成による法改正により御師による御祓大麻の頒布が廃止されるものの、明治5年に明治天皇の思召により皇大神宮拝礼のための大御璽である神宮大麻として、伊勢神宮が組織した神宮教(じんぐうきょう)が全国へ神宮大麻を頒布するようになりました。以降、伊勢神宮が(神宮)大麻を奉製し、神社本庁から全国へ頒布する形で現在まで続いています。