「歳神様(年神様)」は新年を迎えるにあたりお迎えする神様です。お正月とは切っても切れない関係があり、とくに神棚がある家庭では大掃除と歳神様を迎える準備はセットで毎年の恒例行事でしょう。
ところで、なぜ歳神様をお祀りするのか知っていますか? 歳神様とはどのような神様で、なぜお祀りするのか。歳神様について少しだけ理解を深めましょう。
歳神様とは?
歳神様は神話に伝わる神道の神で、次の3柱を指します。(「柱」は神様を数える単位)
大年神/大歳神(おおとしのかみ) | 須佐之男命(すさのおのみこと)と神大市比売(かむおおいちひめ)の子 五穀豊穣、商売繁盛の神宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)の兄弟神 |
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御年神(みとしのかみ) | 大歳神と香用比売(かぐよひめ)の子 |
若年神(わかとしのかみ) | 大歳神の孫 |
歳神様とひとくくりにして呼ぶため意識しないでしょうが、実は上表のとおり3柱の神様です。日本神話では親、子、孫という関係ながら同様の神格とされており、お札には上の画像のように並んで記されます。
また大年神と「歳徳神(としとくじん)」と同一であるとする考え方が一般的です。歳徳神とは、その年の福徳を司る陰陽道の神様であり、須佐之男命の妃である櫛名田姫(くしなだひめ)と同一視されます。歳徳神がいる方角は「恵方(えほう)」とされ、現在も続く恵方巻の原点です。その方角に向かって物事をおこなえば、何事も成就されると考えられています。
歳神様はどんな神様?
歳神様は、上述の3柱だけでなく民間信仰の祖霊などの習合とされ、さまざまな顔を持っています。
神道の豊穣神
日本神話に出てくる大歳神は豊穣をもたらす豊穣神であり、とりわけ稲の稔りをもたらす神様です。同格とされる御年神や若年神と並び豊穣をもたらします。
古語拾遺(こごじゅうい)
『古事記』に記載されているのは大年神の系譜のみ。事績は記載されていませんが『古語拾遺』では次のように記されています。
大地主神(おおとこぬしのかみ)の田の苗が御年神の祟りで枯れそうになったので、大地主神が白馬・白猪などを供えて御年神を祀ると苗は再び茂った
穀物神
歳神様の「歳」は穀物を意味する「登志(とし)」であり、稲作を中心とする稲作や農耕の神様とされます。江戸時代の国学者・本居宣長により「歳とは登志(とし)のことであり穀物のことである」との考えが広まり、米をはじめとする穀物の収穫サイクルを歳と呼ぶようになりました。日本は古くから稲作が重要な産業であり「豊葦原瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」という美称があるほど。豊葦原瑞穂の国とは「豊葦原にあるみずみずしい稲の穂が実っている国」という意味で、稲作の神様(歳神様)への信仰の原点といえます。
農耕が発達するにつれ年のはじめに1年の豊作を祈念する文化が根付いたことにより、歳神様を祀って豊作を祈念する行事がお正月の中心行事になっていきました。
豊葦原瑞穂の国
「此の豊葦原の瑞穂(みづほ)の国を挙(のたまひあ)げて、我が天祖(あまつみをや)彦火の瓊瓊杵の尊に授へり」日本書紀(720年)
来訪神
来訪神とは、年に1度決まった時期に人間界へ降りてくる神様です。歳神様は年に1度、お正月に家々を訪れるて豊穣や幸福をもたらします。時代が経つとともに歳(穀物)より年(1年)の意味合いが強くなり、年神様と呼ぶことが増えてきました。
古来日本では年2回来訪!?
現在の1年間(12か月)は古来日本における2年間にあたるため、歳神様は1年に2回来訪していたことになります。現在も続く6月30日の夏越の大祓(なごしのおおはらえ)、12月31日の大祓(おおはらえ)はその名残。大祓は晦日の行事であり、古代日本では1月1日のほかに7月1日も新年と考えていました。
先祖の霊(祖霊)
歳神様は、民間信仰から自然発生した八百万の神々や先祖の霊が習合した神様です。日本の民俗学の第一人者・柳田國男氏いわく「歳棚に祀る神とは家々の祖霊であって福の神でもある」とし「山、川、海や岩などの自然、家や場所、モノや動物などさまざまなものを神として祀る文化があることに加え、仏教の祖霊を祀る文化が混在する日本ならではの文化であり、それらが混じり合った結果、季節の変わり目に勢力を運び込むものと昔の人々は考えた」と述べています。
歳神様のご利益
歳神様をお迎えすることで得られるご利益は以下のとおり。
- 五穀豊穣
- 長寿
- 無病息災
- 家内安全
- 商売繁盛
上述のとおり歳神様はさまざまな神様の習合であるため、その御利益もまたさまざまです。どの神様が正しく、どのご利益があると決めるわけではなく、どの神様でもあり私たちの生活にかかわるさまざまな幸せを願い、ご利益を与えてくれると考えるあたりが日本人らしさでしょう。
歳神様を祀る神社もある
歳神様は来訪神であり、年に1度各家庭にお迎えする神様であるのは上述のとおり。しかし、大歳神と同一視されるため御祭神とする神社もあります。
神社名 | 都道府県 | 祭神 |
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大歳御祖神社(静岡浅間神社) | 静岡県 | 大歳御祖神 |
飛騨一宮水無神社 | 岐阜県 | 御歳大神 |
大歳神社(天王宮大歳神社) | 山口県 | 大歳神 |
など、歳神様を御祭神とする神社は全国に多数あり、とくに西日本に多くあります。
歳神様の祀り方
歳神様をお祀りする際のポイントは配置です。歳神様のお札は、半紙のものや神宮大麻と同じような細長いものなど形状が異なります。地域性や神社によって形状に違いはありますが、配置は共通です。
- 神棚に向かって右側に大歳御祖神、御年神、若年神(歳神様)
- 左側に大國主神、言代主神(大黒様、恵比寿様)
一例として、福島県の歳神様の祀り方を紹介します。
福島県の一例
当社黒岩春日神社がある地域では、歳神様をお祀りする場所は神棚が主流です。神棚の有無やスペースによって具体的な位置は変わりますが、神棚に向かって右側に歳神様、左側に大国主大神と事代主大神をお祀りします。神棚のうしろの壁に貼ったり、神棚の棚板に貼ったりするのが一般的です。また専用の宮形を配置する家もあります。
ただし、画鋲などでお札に穴を空けることはタブーとされるため注意が必要です。糊やセロテープなどで貼り付けましょう。
歳神様を祀る場所は神棚?床の間?
福島県を含む東北地方では、歳神様を神棚にお祀りするのが主流です。また近年では神棚の棚板に垂らすところが多くなっています。ただ歳神様をお祀りする場所には地域差があるようです。全国的には神棚より床の間にお祀りする地域が主流な上、地域によっては「歳神棚」「恵方棚」という専用の棚を設ける地域もあります。地域のやり方を確認しておきましょう。
お正月は歳神様を迎えるための行事
お正月といえば門松や鏡餅など定番のものがありますが、それらの多くは歳神様をお迎えするためのものです。たとえば、次のようなものがあります。
門松 | 歳神様においでいただく目印であり依代。門や玄関の前に飾る |
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しめ縄 | 邪気を払い、歳神様を迎えるにふさわしい穢れのない清浄な場所を示す結界。 門や玄関の上部に張る |
鏡餅 | 歳神様が宿る依代。正月が明けるまで歳神様が宿るとされ、床の間や神棚などに飾る。 名前と形の由来は、神々の御神体となる鏡の祖である三種の神器「八咫鏡(やたのかがみ)」 |
祝箸 | 両側が細くなった箸。片方は自分、もう片方を歳神様が使って一緒にいただく意味がある。 また箸袋には前を書くのは、1年間の家内安全や災厄除けなどのご利益にあやかるため |
神人共食(しんじんきょうしょく)
「神人共食」とは神様と同じ箸で料理をいただくこと。お正月には歳神様へのお供え物としておせちを作りますが、おせちを祝箸で食べるのは正に神人共食の考え方に基づくものです。また一般的におせちは「お正月くらいは家事の手間を軽減してみんなでゆっくりしよう」という理由で年末に仕込むとされますが、ほかにも煮炊きする煙が歳神様を迎える妨げにならないように慎む意味もあるとされます。
歳神様のお札はどこで受けられる?
歳神様のお札は、地域の神社をはじめ各神社の頒布所で受けられるほか、地域によっては神社の総代や代表者が各家を回って頒布するところもあります。ただ神社によっては頒布していないところもあるため、神社や地域の人に歳神様の受け方を確認しておくと安心です。
歳神様をお迎えする準備に適した日と避けるべき日
歳神様をお迎えする準備とは、とどのつまりお正月の準備(飾りつけ)のこと。お正月は歳神様をお迎えするための行事であることは先に紹介しましたが、その準備には適した日と避けるべき日があるので覚えておきましょう。
お正月飾りを飾ってよい日
お正月飾りを飾るのに適した日は12月28日とされます。もっとも28日限定ではなく、28日までに飾り付けるのがよいという意味です。
12月13日は「正月事始め(しょうがつことはじめ)」といい、お正月の準備をはじめる日とされます。地域により多少の前後はあるものの、正月事始めから28日までの間にお正月の準備を整えるのが慣例です。全国各地の神社では、12月13日に一般の大掃除にあたる「煤払い(すすはらい)」をおこない、歳神様をお迎えするための準備をはじめます。
神様は不浄を忌み嫌うため、歳神様を迎える(お正月を迎える)にふさわしい清浄な場所に整えることが煤払い(大掃除)の目的です。
避けるべき日
一方、以下の3日間はお正月の飾り付けを避けたほうがよいとされます。
避けたほうがよい日 | 理由 |
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12月29日 | 29日の読みが「二重苦」につながるため(苦立て)。 また月の最後の9のつく日であることから「苦末(9の末尾)」、さらに転じて「苦待つ」とも読めるため |
12月30日 | 旧暦の大晦日に当たり、以下と同じ理由で避けられる。 ただし、30日はよしとする考え方もある |
12月31日 | 1日のみの飾り付けがお葬式の飾りつけ「一夜飾り」を連想させるため。 また歳神様をお迎えするのに1日しか飾り付けをしないのでは失礼に当たるとも。 |
12月28日までに準備を終えることが理想的ですが、どうしても終わらない場合は12月30日におこなうとよいでしょう。また12月31日がよしとしない理由には、もう一つ興味深い説があるのでご紹介します。
歳神様は、いつ、どこからくる?
お正月は歳神様をお迎えする日であることはすでに紹介しましたが、いつ、どこからやってくるのでしょうか?
- 初日の出とともにくる
- 山から降りてくる
- 12月31日の日没後にくる
など、歳神様がくる時間や場所については諸説あり、さまざまな説が複合して現在に至ります。たとえば初日の出を見に行く方は多いでしょうが、なぜ初日の出を見る風習があるのでしょうか。
その起源とされるのは「初日の出とともにくる」説です。初日の出とともにやってくる歳神様をお迎えに行くというのは、つまり初日の出を拝みに行くことであり、初日の出を拝む風習につながっているとされます。初日の出に向かって挨拶を述べたり祝詞を奏上したりするのは、歳神様に対する挨拶や感謝を伝えるためなのです。同様に「山から降りてくる」説は、山(とくに富士山)にご来光を拝みに行くことにつながるとされます。
「12月31日の日没後」説は、大晦日の夜は古い歳神様と新しい歳神様が共存し、初日の出とともに入れ替わるという考えです。前項で12月31日はお正月の飾り付けを避けたほうがよいと紹介しましたが、これは「すでに歳神様が来ているのに準備が整っていないのは失礼にあたる」という考え方もあります。
歳神様はいつまでお祀りすればよい?
歳神様をお祀りする期間は、一般的に「松の内(まつのうち)」までです。松の内は関東では1月7日ですが、関西では1月15日の「小正月(こしょうがつ)」までを松の内と考えるため時期が異なります。
時期が来たら歳神様のお札を外し、お焚き上げに出して天に還すのが習わしです。ただし、地域によっては一年中お祀りするところもあります。お住いの地域のやり方を確認しておきましょう。
お焚き上げ
お焚き上げとは、古いお札やお守りなどを火の力で浄化し天に還す儀式です。中でもとくに歳神様のお札や正月飾りなどを焼却する火祭りを「左義長(さぎちょう)」「どんど焼き」などといい、全国的には1月14日の夜や15日の朝など小正月頃におこなうところが多くあります。ただ中には1月7日頃に行う早い地域もあるため、わからない場合は近くの神社に確認しましょう。
左義長、どんど焼きとは?お正月のお焚き上げの呼び名は地域によって多種多様
左義長、どんど焼きは道祖神の祭りとする地域が多く、とくに子どもの祭りとされることが多いお祭りです。歳神様を天に送るだけでなく、さまざまな意味が込められています。
- 火や煙にあたって厄を祓う
- 悪霊を祓う
- 無病息災を願う
主に神社でおこないますが、地域や自治体の有志により行われることも少なくありません。歳神様のお札、門松、松飾り、しめ縄などの正月飾りに加え、古いお守りやお札なども一緒に焼いて天に還します。
左義長、どんど焼きの呼び方は地方でさまざま
全国的には左義長やどんど焼きと呼ばれることが多いのですが、たとえば当社黒岩春日神社がある地域では「どんと焼き」、隣の宮城県などでは「どんと祭」などと呼ぶほか、全国的には数十もの呼び方があるようです。
上記画像はWikipedia(ウィキペディア)などで確認できるものですが、それでもほんの一例に過ぎません。また地域の記載についても一部であり、実際にどのような呼び方があるのか、どこの地域で使われているのかは、はっきりとわからない状態です。
鏡餅の飾り方
歳神様をお祀りするときには、鏡餅もセットで飾ります。前述のとおり鏡餅は歳神様の依代であり、お供え物でもあるため欠かせない存在です。
飾り付け手順
基本的な鏡餅の飾り方は以下のとおり。
- 三方(さんぽう)に半紙を敷く
- 半紙の上に裏白(うらじろ)、もしくは譲り葉(ゆずりは)を敷く
- 葉の上に鏡餅を乗せる
- 鏡餅の上に昆布をのせる
- 昆布の上に橙(だいだい)を乗せる
昆布を乗せない略式でもよいでしょう。地域によってはさらに縁起物を飾ったり、四方紅(しほうべに)を敷いたりします。
飾る場所
鏡餅を飾る場所は床の間が基本です。床の間がない場合は、神棚もしくはリビングなど人が集まる場所に飾ります。東もしくは南向きの明るく高い場所がよいでしょう。また床の間の有無にかかわらず神棚に飾る地域もあります。
配置
手順どおりに飾り付けた鏡餅を床の間や神棚などに置けば完成です。もしスペースがある場合は、生花や香炉を追加したり掛け軸を追加したりすると豪華に飾れます。
生花などを追加する場合
- 向かって左から生花、香炉、鏡餅の順に並べる
- 後に花の掛け軸を追加すると最大限の飾りつけになる
生花は松、竹、梅や福寿草など縁起のよいものを選びましょう。掛け軸に描かれている花と生花がかぶらないように注意してください。
鏡餅の数
鏡餅はいくつ飾っても構いません。歳神様に来てほしい場所があれば、いくつでも鏡餅を飾りましょう。
たとえば、一番大きいものを床の間や神棚などに配置し、小さいものを家の各部屋に配置するという具合です。
鏡開き
「鏡開き(かがみびらき)」は、年のはじめに鏡餅を切り分けて食べる日本の伝統行事のひとつ。一般的に松の内のすぐあとにおこなうため、関東で1月11日、関西では1月15日が主流です。ただ明確な日程が決まっている行事ではないため、地域や家庭により鏡開きの日程は異なります。
- 1月4日(京都)
- 1月7日(九州)
- 1月11日(関東の主流)
- 1月15日(関西の主流)
- 1月20日(関西)
上記はほんの一例ですが、京都には三が日が終わるとすぐに鏡開きをする地域があるほか、九州の一部地域では1月7日、関西の一部では1月20日とまちまちです。
鏡開きの目的
鏡開きの目的は、歳神様が宿った神聖なものをいただいて無病息災や子どもの成長などを願うこと。食べやすい大きさに割った鏡餅はお雑煮、お汁粉やぜんざいなどにして、1年の無病息災を願いながら食べます。また鏡餅を食べて「歯固め」をするのも日本の伝統的な風習です。
鏡餅は切らずに割る
現代では鏡餅を包丁で切ることも珍しくなくなりましたが、本来は木槌などで割るのが正しい作法とさます。これは「切る」が「切腹」につながるため縁起が悪く、とくに武士の間で避けられていたことが理由です。
鏡開きはお年玉の起源とも
お年玉の起源についてはいくつかの説がありますが、そのひとつが鏡開きの風習です。鏡開きでは、歳神様が宿った鏡餅を小さく割り、家長や目上の者が歳神様の代理として家族や目下の者へ配るのは前述のとおり。歳神様が宿った神聖な鏡餅は「御歳魂」と呼ばれ、御歳魂を配る風習が現在のお年玉に変化したといわれています。
お年玉の文化は江戸時代頃に庶民に浸透しはじめたとされており、この頃には鏡餅以外のものを渡すこともあったようです。その後、昭和30年代の高度経済成長期頃から現金が主流となり、現在と同じように子どもへ渡すものへと変化していきます。